「AIで作れるなら、Web業者はもう要らない」は本当か
「AIで作れるなら、Web制作会社はもう要らないのでは」
そう感じ始めている方が、確実に増えています。実際にAIを触ってみて、「これで十分なのでは」と思った方も少なくないはずです。
最初に立ち位置をお伝えしておきます。私はウェブ制作会社を経営する立場ですが、AIに対して否定的な人間ではありません。むしろ、これまで複数回のAIセミナーを実施し、社内でもAI研修を重ねながら、日々AIを使い倒してきました。
積極的に活用していく方針でここまで取り組んできた立場から、「Web制作会社はもう要らないのか」という問いに、向き合ってみたいと思います。
AIでサイトが作れる時代になって、聞くようになったこと
ここ一年ほどで、ウェブサイト制作にまつわる話の中に、新しい流れが入ってきました。
SNSで目にする発信、実際にいただいたご相談、そしてあなたが感じているかもしれない引っかかり。この三つの角度から、最近私が気になっていることを書いていきます。
SNSで増えた「Web業者は要らない」
SNSを眺めていると、AIを使ってサイトを作った方が「もうWeb業者は要らない」と発信している投稿を、頻繁に目にするようになりました。
生成AIで作ったランディングページ、ノーコードツールとAIを組み合わせたコーポレートサイト、プロンプト一つで出てきたデザイン案。
どれも数年前であれば、それなりの時間と費用をかけなければ作れなかったものです。それがいま、個人の手元で、数時間から数十分で形になる。この変化自体は事実として大きいと感じます。
こうした投稿を見て、「うちも同じようにできるのでは」と考えるのは、自然な流れだと思います。
正直、私はこの流れを悪いものとは思っていません。
ただ、「Web業者はもう要らない」という結論に至る前に、一度立ち止まって確認しておきたいことがあります。
AIと制作会社、何が違うんですか?という相談
先日、こんな相談を受けました。
「AIで作った場合と、制作会社に依頼した場合で、何が違うんですか」
この問いに自分の言葉で答えられるかどうかは、これからの制作会社にとって大事なことだと思っています。
結論だけ先にお伝えすると、「サイトを持っておきたい」だけなら、そこまで大きな違いはありません。でも、「そのサイトで何かを達成したい」ならば、違いははっきり出てきます。
たとえば「問い合わせを増やしたい」「採用に繋げたい」「自社の考えを伝えて選ばれる理由を作りたい」。こういう目的があるなら、誰が作るか、どう作るかで、出来上がるものは全然違うものになります。
突き詰めると、作るという目的を、どう定義するか。その目的に、向き合える相手か、という事だと考えています。
AIを使っていて「なんか違うな」と感じたことありませんか
あなたが、ChatGPTやGeminiなどを実際に使ってみたとき、「なんか違うな」と感じた経験はないでしょうか。
たとえば、こんな瞬間です。
AIが出してきた回答が、一見もっともらしいのに、細かく読むと事実と違っていた。 画像を生成してもらったら、雰囲気は良いのに、細部がどうしても不自然だった。 企画書やスライドを作らせたら、それなりの形にはなるけれど、自社の文脈にぴったりはまっているとは言えなかった。 文章を書いてもらったら、どこか平均的で、自分の言葉として発信するには物足りなかった。
こうした「なんか違う」という感覚、一度や二度は経験されているのではないかと思います。
私自身も同じような引っかかりを何度も感じてきました。
便利なのは間違いありません。ただ、完璧ではありません。
確かに、AIでサイトが作れる時代になりました

AIを使えば、デザイン案の作成、コードの生成、文章の執筆、画像の制作、これらが個人の手元で形になります。数年前であれば、それなりの時間と費用をかけなければ作れなかったレベルの成果物が、短時間で手元に出てくるようになりました。
この変化は、確かに大きいと思います。
ただ、「AIで作れる」と一口に言っても、作れるものには幅があります。AIで十分なものもあれば、AIに任せても思ったようにならないものもある。
まずは、AIで十分作れる範囲から見ていきます。
名刺代わりのサイトなら、AIで十分作れます
「とにかくうちの会社がWeb上にあればいい」という目的なら、AIで作るのは全然アリだと思います。
会社の基本情報が整理されていて、問い合わせフォームがあり、スマホでも一通り見れる。
このくらいの中身であれば、AIに相談しながら短時間で形にしやすくなりました。
もちろん、ドメインの取得、サーバーの契約、セキュリティの設定など、サイトを公開するための周辺作業は別途必要です。ただ、サイトの中身を作る部分のハードルが、確かに下がってきています。
正直、こういうサイトを制作会社に依頼してもらうのは、今となっては勿体ないと感じる場面もあります。そこに何十万、何百万の予算をかける意味は、以前ほどは無くなってきたというのが実感です。
ただ、サイトに求めるものが「存在していること」を超えてくると、話が変わってきます。
同じ「サイトを作る」という言葉でも、目指している場所が違えば、必要なものもまったく違ってきます。
AIではどうにもならない場面とは
では、そこから一歩踏み込んでAIではどうにもならない場面について考えてみます。
考え抜き、洞察し、形にする。これは人の仕事です。
たとえば「このサイトで成果を出したい」というような話になってくると、まだまだ人の提案や考えが必要だと感じています。
作り始める前に、どれだけ考え抜けるか。どれだけ洞察できるか。そして、それをどれだけ形にできるか。ここの深さが、結果を分けると感じています。
具体的に、何をしているのか。
まずは、目的を正しく汲み取ることから始まります。
「問い合わせを増やしたい」「採用に繋げたい」「選ばれる理由を作りたい」。
こういう言葉は、相談の最初に出てくるものです。ただ、その言葉の裏には、事業の現状、会社が向かいたい方向、今抱えている課題などが詰まっています。何度か話を重ねる中で、「本当に達成したいのはこれか」と見えてくることがある。時には、最初に言われた目的と本当の目的が違う場合もあります。
次に大事なのが、会社の実像を、洞察することです。
会社のカラーを作っているのは、言葉にできる情報だけではありません。
打ち合わせを重ねる中で見えてくる経営者の話し方、社員さん同士のなにげないやり取り、お客様との関係性。こうした非言語の部分に、その会社の実像が表れていると感じることが多いです。
他にも、事業の仕組みや付加価値の背景、これまでの成功や失敗のストーリー。こうしたものをヒアリングで丁寧に掘り起こしていく作業も、この工程の一部です。
今のところ、AIはこうした情報を見ることも、そこから何かを感じ取ることも、難しいのではないかと感じています。実際に人と会って、話を重ね、少しずつ手触りを掴んでいくところは、しばらくは人の仕事として残りそうだと考えています。
考え抜き、洞察したものを、最後に形にする。
その「形にする」工程には、設計・制作・品質確認・公開まで、さまざまな仕事があります。

ターゲットに向けて、どういう設計で、どういうデザインで、どういう文章で、サイトを組み立てていくか。
この深さを追求した先に、目的達成に繋がるサイトが生まれる。
そう信じて、私は今この仕事に向き合っています。
補足しておくと、これは「制作会社に頼めば自動で実現する」という話ではありません。
AIか人かよりも、目的に向き合うと決めて、最後までやり切れるかどうか。それが、結果を分けると感じています。
少し抽象的な話が続いたので、次に一つ具体的な事例をお話しします。
ある地場の自動車関連会社の事例
以前、自動車関連事業を幅広く手がける会社のサイトを、制作させていただきました。新車・中古車の販売、鈑金、整備など車にまつわることを一通り引き受けている会社です。
このサイトを作る中で、途中でデザインをゼロから作り直すという判断をしました。この判断ができたのは、直接お会いして、会社の雰囲気や空気感を肌で感じていたからだと振り返って感じています。
最初にデザイナーが上げてきた案は、綺麗に整っていました。サイトとしては十分成立していました。
ただ、社内のメンバーの皆さんとお話しているうちに、このデザインの方向性が少し違うのではないか、と感じ始めました。
この会社には、制作が始まってから何度もお会いしていました。社内会議にも参加させていただき、撮影では現場を回り、お客様の納車の場面にも同行させていただきました。
そうやって時間を共にしていると、社員さん同士のやり取りや、お客様と接する時の姿勢、経営者の方が普段から口にされる言葉の端々から、この会社のカラーが見えてきます。
一発目のデザインは綺麗ではあるけれど、この会社の実体と、微妙にズレている。そんな感覚が、打ち合わせや訪問を重ねる中で強くなっていきました。
この違和感を社内で共有し、検討を重ねた結果、デザインをゼロから作り直す判断をしました。

この判断ができたのは、直接お会いして会社の空気を感じていたからです。もし打ち合わせだけで進めていたら、あるいは遠隔でのやり取りだけで完結していたら、違和感そのものに気づけなかったかもしれません。
この事例の詳細は、別の記事にまとめています。興味のある方はこちらからご覧ください。
ところで、そのサイトを動かすのは誰ですか
ここまで、サイトを作る工程での話をしてきました。
新しいサービスが始まった時、料金が変わった時、スタッフが増えた時、キャンペーンを打ちたい時。こういうタイミングで、サイトにも手を入れる必要が出てきます。
その作業を、どのくらい楽にできる状態で渡せているか。ここは、作り方によって大きく変わってきます。
運用段階で起きがちなこと
日頃からAIを使っている方なら、経験があると思います。
指示を出しているのに、なぜか意図通りに受け取ってくれない。何度言い直しても、ずれた答えが返ってくる。「こうじゃなくて、こう」と説明を重ねているうちに、時間ばかりが過ぎていく。AIを使い込んでいる方ほど、こういう場面に出会っているはずです。
サイトの運用でも、同じことが起きます。
AIでまるごと作ったサイトは、中身の構造を自分で把握しているわけではありません。そのため、少し更新したいだけなのに、意図していない箇所まで一緒に変わってしまう。気づかないうちに別のページが崩れている。こうしたことが、実際に起こり得ます。
「AIで作ったサイトは、AIで更新していけばいい」。そう考えている方も多いと思います。ただ、それが現実的にできるのかどうか、一度考えてみていただきたいと思っています。
AIと制作会社、どう使い分けるか
「AIか、制作会社か」という二択で考えると、どちらを選ぶかの話になります。
でも、実際はそんなに単純な話ではありません。
私たち自身、日頃の仕事の中でAIと人の手を使い分けています。サイトを作る時も、運用する時も、この使い分けの判断を細かく積み重ねています。
ここからは、その使い分けの実態について書きます。
どこでAIを使い、どこで人が手を入れるか
まず、私たちの現場でAIをどう使っているか、一例として並べてみます。
- ブログ記事の構成案作り、執筆補助
- マーケティング戦略の検討、ペルソナ設計
- デザインのワイヤーフレームのたたき台作り
- コードを書く時の補助
- 思考の壁打ち相手、アイデア出し
- 資料作成の下書き
- 不要になったファイルの整理、サイト構造の見直し
この数年、いろいろな場面でAIを試してきました。特に、ゼロから何かを考え始める時や、アイデアを広げたい時の壁打ち相手としては、一人で考えるより遥かに早く、遥かに深いところまで進めます。
最近は、単なる効率化を超えて、事業にインパクトを与える使い方もできるようになってきました。
たとえば、利益率を向上させるために生成AIを導入する、業務の工程管理ツールを自社独自に作って、生産性を徹底的に管理する。AIがなかった頃には考えられなかった仕組みが、現実に整えられるようになっています。効率化の延長ではなく、事業の構造そのものを変える使い方が、出来るようになってきています。
一方で、人が直接手を動かした方が早い場面もあります。
微妙な文言の調整、色のニュアンスの確認、デザインの最終判断。こうした細部の感覚が必要な作業は、AIに指示を出して何度もやり取りするより、自分で直接手を動かした方が早いことが多いです。
繰り返しになりますが、目的を正しく汲み取る工程や、会社の実像を洞察する工程は、今のところ人が担う領域として残っていると考えています。
AIが得意な領域と、人が担う領域。この境界を掴んで使い分けることが、今の制作現場の実態です。ただ、使い込んでいる側だからこそ、気をつけたいこともあります。
AIを使えば使うほど、見失いやすいこと
日常的にAIを使い込んでいると、自分の中で少しずつ変わっていくものがあります。
いつの間にか、「AIが良いと言ったから、これでいい」という判断軸に寄ってしまうことがある。これは、AIを否定する人ではなく、AIを使っている人ほど陥りやすい感覚です。
AIと何度もやり取りを重ねて、出てきたアウトプットを見て、「うん、いいね」と判断する。その判断が、いつの間にか、AIとの対話の中だけで閉じてしまう。外の世界、つまり最終的にそれを見る人が、視界から抜けていく瞬間があります。
改めて、当たり前のことを書きます。
サイトを見るのも、文章を読むのも、デザインに触れるのも、人です。
AIに評価してもらうために作っているわけでも、検索ロボットに向けて書いているわけでもありません。ページを開いた人が、何を感じて、どう動くのか。最後はそこに全部の価値があります。
AIはすごい道具です。この数年で、本当に驚くほど進化してきました。
ただ、使えば使うほど、その先にいるはずの「人」が見えにくくなることがある。これは、道具そのものの問題ではなく、使う側の感覚の問題です。
だから私は、自分に問い続けるようにしています。
「この制作物は、誰が見るためのものか」 「その人は、これを見てどう感じるか」
この問いを持てているかどうかで、AIを使っても、人が作っても、出てくるものの価値は大きく変わります。
そしてこの問いは、そのまま、そのサイトを何のために作るのかという話に繋がっていきます。
結局、このサイトは何のために作るのか
ここまで書いてきた話は、最後にこの一つの問いに戻ります。
このサイトは、何のために作るのか。
シンプルな問いです。
ただ、この問いに自分の言葉で答えられるかどうかで、AIで良いのか、人の手が必要なのかが、見えてきます。
「サイトがあること自体」が目的であれば、AIで作るのは合理的な選択です。会社の情報をWeb上に置く、それが達成できればいい。この目的なら、AIに数時間付き合ってもらえば十分かもしれません。
「サイトを通じて、何かを動かしたい」が目的であれば、話が変わってきます。
問い合わせを増やしたい、採用に繋げたい、自社の考えを伝えて選ばれる理由を作りたい。こういう目的であれば、そのサイトを見る人は誰で、その人に何を届けるかを、解像度高く設計する必要があります。
そして、この解像度を持つのは、思っている以上に難しい作業です。会社の強み、お客さまとの関係、社員が大事にしている姿勢、事業の未来。こういうものを言葉にし、サイトの構造に落とし、文章やデザインに反映させていく中で、目的はしばしば見えにくくなります。
だからこそ、もう一度この問いに戻ってみてほしいと思っています。
このサイトは、何のために作るのか。
この問いに自分の言葉で答えられるなら、AIで作ろうが制作会社に頼もうが、良いサイトになります。
答えに詰まるなら、作り始める前に、その問いと向き合う時間を持ってほしいと思っています。その時間こそが、サイト制作の中で一番価値のある工程だと、私は考えています。
AIか制作会社か、ではありません。作るという目的を、どう定義するか。その目的に、向き合える相手か。AIの進化とともに、この二つの問いはますます大事になっていくと思っています。